オリジナル小説

宿運 鍵 3


 俺はその小さな、片手で充分持ち上げられる仔猫を抱き上げ、点々と続く血に気付いた。

 

 「ここまで、逃げてきたのか……」

 

  痙攣と震えが止まらない仔猫を抱き締める。なんで人は、遊びでこんな事が出来るんだ。

 

 「こめん……、ごめんな。……ごめん…」

 

  謝る事しか出来ない俺の頬を、小さな舌が舐める。いや、もう舐める力なんて残ってやしない。頬に触れるのがやっとだった。

 

 「…ャ……」

 

  最期に聞き取れない声でひと声鳴いて、仔猫は動きを止めた。

 

 「……っとに……ばか……や……ろが……」

 

  まだ人を敵として牙を剥き、爪をたててくれた方が、いくらも救われる。

 

  俺は袖でゴシゴシと目を擦って、仔猫を抱いたまま立ち上がった。

 

 「埋めてやらないと……」

 

  もう、学校に行く気にもならない。

 

  俺は詰襟を脱いで仔猫を包み、学校の裏手にある河原に向かった。

 

 


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