宿運 扉15


 

  俺はそこを通り過ぎ、俺が倒れていた場所に缶ビールを置いた。

 

  孝亮は、自分がバイクから放り出された場所から、血塗れの体を引きずって俺の所まで来たのだ。

 

  その姿は、まるで何かから俺を守ろうとするように、俺に覆い被さっていたという。

 

 『あの場所へは、二度と来んじゃねぇぞ!』

 

  孝亮の声が、警告のように頭の中で響く。

 

  時計を見ると、針は十二時をさそうとしていた。俺はタバコをつけて、ビールの前にそれを置いた。

 

 「ピッタリ、あの時間だ。……孝亮」

 

  手を合わせ、目を閉じる。それを合図とするように、それまでガヤガヤとウルサい程だった街の雑踏が、何かに吸い込まれるように、スゥーと消えていった。

 

 『…ねぇお兄ちゃん。コッチ、来る?』

 

  クスクスと笑いを含んだ子供の声が、すぐ耳元で囁いた。

 

  それに反応して、ブワッ! と全身が総毛立つ。ビリビリと感じる程の、『殺意』

 

  俺は、ガッと目を見開いた。すると、すぐ目の前。顔がくっつくかと思う程の距離に、幼い女の子の顔があった。

 

  その女の子は、ガードレールにぶら下がるように両肘をついて、歪いびつな笑顔を浮かべている。

 

  年齢とその表情のアンバランスさに、悪寒が背中を駆け巡る。

 

  俺が呼んだのは、こんな訳解んねぇ女の子(クソガキ)じゃねぇ!


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