「…くっ…」
土を掘る泥塗れの手が、ボヤリと霞む。
ポタリと土に滴が落ちて、すぐに吸い込まれていった。何度拭いても、涙が溢れ出す。
「なんでお前、こんな事に」
呟いた途端。滲む視界に、ある情景が浮かびあがった。
笑顔で手を差し伸べる人間達。ぼんやりとしてはっきりとは見えないが、もしかしたらその手にはエサが乗っているのかもしれない。その、親しみをもった笑顔に、やさしさの感じられる手の温もりに、気を許した途端、視界に入ってきた、ボーガンを構える男。
きっとまだ学生だ。俺達と、同じぐらいの。小首を傾げるようにして、片目を閉じている。だが、その口許は――笑っていた。
「今の……って……」
見えた幻覚を振り切るように、慌てて首を振る。
「まさか……」
お前が、やられた時の?
俺の言葉に応え、見せたのか。なんで自分が、こんな事になったのかを。
ブルリと勝手に体が震え、どれ程怖かっただろうと思う。
俺は制服からそっと仔猫を抱え上げ、ボーガンの矢を抜いた。汚れた体を、水の中で洗ってやる。
「こんなにきれいな毛だったんだな、お前」
さらに小さくなったように感じられる仔猫を、掘った穴に埋めてやる。