宿運 扉2


 

「…あっ!」

 

  十字路の左折。短く上げた、孝亮の声。

 

 「馬鹿! クソガキッ」

 

  耳に届いた舌打ちの音。後輪が、大きくブレた。

 

 「僚紘!」

 

  ガクンと体が下がる。ドンッと、孝亮の手が俺の胸を押した。

 

  ゆっくり後ろへ流される。伸ばした手は、届かない。

 

  微かに振り向いた、左顎のキズ。

 

  影になって、顔が見えない。

 

  ……一瞬。

 

  一瞬が、俺と孝亮を引き裂いた。

 

  ザザザザザザザザッ……。

 

  バイクが、横倒しに転がる。

 

  左腕に、鋭い衝撃が走る。滑った体を、ガードレールが受け止めた。

 

  うっすらと開けた目に映る、こちらに這ってこようとする孝亮の姿。

 

 「なに……孝亮。お前…血まみれ…じゃ…ん……」

 

 重い瞼を閉じ、闇に吸い込まれる。

 

  最期まで、見届けるべきだったのに。

 

  孝亮の後ろにいる存在。俺は、気付けなかったのだ。

 

 

  闇が……薄く、笑う。

 

  路(みち)は途絶え、宿運(しゅくうん)の門が、開き始める。


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