男の言葉に、孝亮の顔が頭を過(よ)ぎる。
死相、上等! 一緒に死んでやろうじゃねぇか。
クスリと笑いを洩らした俺は、警戒を込めて男を睨み返した。
「何者だ、お前? なんで知ってるんだ。そんな事」
訝しがる俺に、男が目を剥いた。ギリギリと手首を掴む手に力を入れる。
「知ってる? なんで知ってるだと?」
「イテテ! 何すんだよ、離せッ」
顔を強張(こわば)らせた男の目が、一瞬にして変貌した。今まで穏やかな光を放っていた瞳が、瞬(まばた)きと共に闇に支配される。
「お前、自分から死ぬ気なのか?」
やっと俺の手首から手を離した男は、その手で顔を覆おおった。
「なんて……事だ…」
蒼白な顔で動揺する男を冷たく見返して、俺は軽く右手を上げた。
「じゃ、そゆコトで」
小声で言って、足早に歩き出す。
どう考えたって、尋常な奴じゃねぇ。あんなのに関わっちゃ、ロクな事がねぇぜ。
振り向かず、只前だけを見て歩く。
こーゆー時は、振り向いちゃいけねぇんだよな。ほらアレ、子犬とかと一緒だ。振り向いて、万一目なんか合わせてみろ。どこまででも、ついて来る。
角を曲がり、しばらくしてから、やっと歩くスピードを落とす。
「なんなんだ、あいつは。頭イカれてんじゃねぇか?」