補講帰り 4


 

 なぁ爆豪、と轟が俺を呼ぶ。

 

 もう今更遅ェわ、と言ってやりたかった。

 

 

 俺は――お前なんかを、もう追いかけたりしてねぇ。

 

 

「……爆豪。俺の事が嫌いなら、無視し続けてくれ。俺にも、お前にしちまったのと同じ事をしてくれ。そしたらきっと――鈍い俺にも、解るから。お前の何分の一かでも、傷付く事が、できるだろうから。だから……」

 

 すでに傷付いたような横顔をして、轟が言葉を止める。

 

 唾を一つ飲み込んで、それでもまだ口を開こうとしていた。

 

 ――なんて顔、してやがんだ。

 

 心の中で呟いてから、笑ってやる。

 

「てめェ、自分がニブいって判ってんのかよ」

 

 弾かれるように轟がこちらを向いて、なんとも言えない顔をする。

 

 しばらく目を見開いたままで俺を見つめてから、下唇を噛んで悔しげに言った。

 

「……うるせぇ。俺だって、それくらい少しは判る」

 

「少しなのかよ。――言っとくが、てめェのニブさは相当だかんな」

 

 俺の言葉に、眉を下げた轟が困ったように笑う。

 

「ズリィな、爆豪。……やっぱお前はやさしい」

 

 轟の台詞に、グッと言葉に詰まった。

 

「てめェくらいだわ。そんなコト言うの」

 

 顔を背けた途端、「お」と轟が声を落とした。

 

「皆知らねぇのか、爆豪がやさしいの。……そうか。俺だけが知ってんだな」

 

 目を剥いて見返せば、何故だか満足げな顔をしている。

 

「バカかッ。キメェこと言ってんな」

 

「皆ずっと……知らねぇままならいいのにな」

 

 目を細め微笑み見てくる轟から、「ケッ」と再び顔を逸らした。

 

「皆が知る前に、お前が気付くわ。俺がやさしくねェって」

 

 どうだろうな、と答えた轟が、何かを思いついたようにクスリと笑う。

 

「だけど気付く為には、爆豪と長く一緒にいねぇといけねぇな」

 

「お断りだわ」

 

 呆れて返せば、ムッとした雰囲気を隣から漂わせた。

 

「……言いふらすぞ、皆に。爆豪はやさしいって」

 

「どんな脅しだッ! てか、さっきと言ってっコト違うだろーが!!」

 

 こんなくだらねェ言い合いにも、轟は楽しそうに笑う。

 

「…………意味、解んねぇわ」

 

 

 ――ホント。変わってやがんな、コイツはよ。