俺を後ろに押しやって、男が前へと出た。
「僚紘。お前を一緒に連れていくのは諦めるよ。あんな力を見せつけられちゃ、俺なんかひとたまりもないからな」
俺から顔を背けたままで言う。
「思い出してもらえないなんて……。辛いよな」
まるで征志に対して言ったような台詞に、征志がギンと目を見開く。しかし自分を抑えるようにきつく目を閉じた征志は、クスリと自嘲気味に笑ってみせた。
「逝くか?」
再び目を開けた時、征志はいつもの冷静さを取り戻していた。そっと、男の額に手を伸ばす。
黙って頷いた男は、体を預けるように俯いた。チロリと斜めに俺を振り返って、目を細める。
「おい……あんた――」
近付こうとする俺を、征志が視線で制する。男の額に手をあてたままで、小さく首を横に振った。
「俺はさ、弱いから……逃げてしまったけれど。本当は、後悔してるんだ、今さらだけどな。だから僚紘、お前は強くなれ。辛くて苦しい、その思いすらも大事にしてくれ。きっとそれが、生きるって事だから……」
やさしい声が、耳に届く。俺は足を止め、二人を見守った。
「生きて、会いたかった」