幻の欠片 18


 

 俺を後ろに押しやって、男が前へと出た。

 

 「僚紘。お前を一緒に連れていくのは諦めるよ。あんな力を見せつけられちゃ、俺なんかひとたまりもないからな」

 

  俺から顔を背けたままで言う。

 

 「思い出してもらえないなんて……。辛いよな」

 

  まるで征志に対して言ったような台詞に、征志がギンと目を見開く。しかし自分を抑えるようにきつく目を閉じた征志は、クスリと自嘲気味に笑ってみせた。

 

 「逝くか?」

 

  再び目を開けた時、征志はいつもの冷静さを取り戻していた。そっと、男の額に手を伸ばす。

 

  黙って頷いた男は、体を預けるように俯いた。チロリと斜めに俺を振り返って、目を細める。

 

 「おい……あんた――」

 

  近付こうとする俺を、征志が視線で制する。男の額に手をあてたままで、小さく首を横に振った。

 

 「俺はさ、弱いから……逃げてしまったけれど。本当は、後悔してるんだ、今さらだけどな。だから僚紘、お前は強くなれ。辛くて苦しい、その思いすらも大事にしてくれ。きっとそれが、生きるって事だから……」

 

  やさしい声が、耳に届く。俺は足を止め、二人を見守った。

 

 「生きて、会いたかった」

 

 


オリジナル小説 小説ブログランキング