オリジナル小説

宿運 鍵 6


 ガクリ、と少年の体がブレる。一瞬のうちに、俺の目の前で少年がずぶ濡れになった。

 

  右の目からは、ドクドクと赤黒い血が流れ出す。

 

 「…まさか……、おま…え……」

 

  今かぶせたばかりの土に目を向けた俺に、ニコリと笑ってみせる。

 

  やっぱり!

 

  さっき感じた感覚は、あの時と一緒だ。初めて、鬼に取り憑かれた少女の霊に話しかけられた、あの時と。

 

  俺は腰をついて、後退さった。

 

 「勘弁してくれッ! 俺は、幽霊とかオバケはダメなんだ……!」

 

  叫ぶ俺に、少年はなぜなのか解らないというように首を傾げ、悲しそうな微笑を浮かべた。

 

 「――怖い……?」

 

  当たり前だ! と言いたいところをグッと堪えて、俺はごくりと唾を飲み込んだ。

 

 「……怖い……っていうか……、なんで、俺の前に出てくるわけ?」

 

  それも、そんなカッコで。

 

 「出るならさ、お前をそんな目に合わせた奴の前にするとか……」

 

 「泣いてたから」

 

 「は?」

 

 「泣いてくれてたから……。今、ボクのために」

 

 「いや、だから」

 

  自分の為に泣いてる奴を怖がらしてどうすんだよ!

 

 「お兄さん、似てるね。テツヤに。テツヤもね、泣いてくれたんだよ、ボクのかあさんが車にひかれた時に。一人ぼっちになったんだなって言って、ボクを家に連れて帰ってくれた。今日までずっと、一緒に暮らしてたんだよ」