ガクリ、と少年の体がブレる。一瞬のうちに、俺の目の前で少年がずぶ濡れになった。
右の目からは、ドクドクと赤黒い血が流れ出す。
「…まさか……、おま…え……」
今かぶせたばかりの土に目を向けた俺に、ニコリと笑ってみせる。
やっぱり!
さっき感じた感覚は、あの時と一緒だ。初めて、鬼に取り憑かれた少女の霊に話しかけられた、あの時と。
俺は腰をついて、後退さった。
「勘弁してくれッ! 俺は、幽霊とかオバケはダメなんだ……!」
叫ぶ俺に、少年はなぜなのか解らないというように首を傾げ、悲しそうな微笑を浮かべた。
「――怖い……?」
当たり前だ! と言いたいところをグッと堪えて、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「……怖い……っていうか……、なんで、俺の前に出てくるわけ?」
それも、そんなカッコで。
「出るならさ、お前をそんな目に合わせた奴の前にするとか……」
「泣いてたから」
「は?」
「泣いてくれてたから……。今、ボクのために」
「いや、だから」
自分の為に泣いてる奴を怖がらしてどうすんだよ!
「お兄さん、似てるね。テツヤに。テツヤもね、泣いてくれたんだよ、ボクのかあさんが車にひかれた時に。一人ぼっちになったんだなって言って、ボクを家に連れて帰ってくれた。今日までずっと、一緒に暮らしてたんだよ」