宿運 扉10


 

「……ちょっと、君」

 

  何十日かぶりに行った学校の帰り。校門を出た途端に、俺は後ろから声をかけられた。

 

 「なんだぁ?」

 

  人の事を『キミ』なんて呼ぶような奴に知り合いなんていねぇぞ。

 

  仏頂ヅラで振り向いた俺は、案の定知らない男の顔を確認して、再び背を向けて歩き出した。

 

 「ちょっと! 待てって」

 

  左腕を掴む男の手を、勢いよく振り払う。

 

 「俺の左腕に触んじゃねぇ!」

 

  チッと舌打ちして、振り向き様に男の胸倉を掴んだ。

 

 「なんだ? お前。馴れ馴れしく人の腕掴んでんじゃねぇぞ」

 

  言って、突き飛ばすように手を離す。キズの残ったこの腕を、孝亮以外に触れて欲しくはなかった。

 

  だが俺の手首を掴んだ男は、グイと腕を引っ張って器用に体制を立て直す。

 

 「俺の名は上宮(かみつみや)征志(せいじ)。君が入院してる間に、君のクラスに転入してきた。……だが、今は自己紹介をしてる場合じゃない」

 

  俺を食い入るように見つめた男は、手首を掴んだままで低く言った。

 

 「死相が出てるぞ。鏑木(かぶらぎ)僚紘(ともひろ)」

 

 「シソウ……だと?」

 

  瞼を痙攣させる俺に、そいつはゆっくりと頷いた。

 

 「そう。顔に死期が現れてる。このままだと、君。死ぬぞ」

 


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