宿運 扉20


 

 「お前を助けたのは、上宮だぜ。俺はお前が死んでも、別によかったんだがな」

 

  俺の台詞を遮って、孝亮が不機嫌に言う。

 

 「じゃあ、なんであの時、俺を突き落としたのさ?」

 

 「ああ?」

 

 「俺を助けたから、あんた死んじまったんじゃないか。あん時、俺が死んでりゃ…」

 

 「ああ。あれね」

 

  そう言うと孝亮は、カラカラと大声で笑いだした。

 

 「いや、悪ィ。あん時はお前を助けようとしたんじゃなくて、お前を落としゃ、俺は助かると思ったのさ!」

 

 「えっ、ウソ」

 

 「ホント」

 

  たっはっはっと笑って、俺の右頬を抓る。

 

 「そんな顔すんなよ。俺ってこんな奴なんだからよ!」

 

  俺の肩に肘を乗せて、孝亮は上宮に体を向けた。

 

 「上宮、今拾ってきた物は何だ? さっき確か、光ってたろ」

 

  言って、上宮が差し出した、掌の上の丸く平たい物を覗き込む。

 

 「何だ? これ」

 

 「銅鏡だよ」

 

  大きさは厚み一センチ、直径十センチ程。星のような模様のまわりに、細かい文字のような物が彫られている。それをひっくり返すと、なるほど、鏡になっていた。

 

 「へぇー、初めて見た。教科書でしか、知らないモンな」

 

 「神社にも奉(まつ)ってあるよ、もっと大きいのが。御神体としてね」

 

  感心する孝亮を上目使いに見遣って、上宮が説明する。

 


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