宿運 扉7


「孝亮ッ!」

 

  叫んで、俺は自分の声で目を覚ました。

 

  暗闇を見渡し、ここが自分の部屋なのだと思い出す。

 

  あの事故から一月半。やっと退院して、今日自分の家に帰って来たのだった。時計を見ると、十一時五十分を示している。

 

 「……イヤな、時間だな……」

 

  全身グッショリと汗に濡れている。額の汗を袖で拭って、再び枕に頭を埋めた。

 

  あれから繰り返し見る、事故当日の夢。その中で俺は何度も孝亮と約束を交わし、何度も嫌な予感を口にした。それでも、夢の中ですら孝亮を助けられず、何度も孝亮は俺の目の前で血に塗(まみ)れてしまった。

 

  左の頬を触って、縦に入ったキズを指先でなぞる。

 

  あの事故で、俺の左頬と左腕には、大きなキズか残った。いや、それよりも俺は、取り返しのつかない一番大事なものを、あの事故で失くしてしまった。

 

 「…孝亮…」

 

  右腕で両目を覆う。

 

  ドンッ!

 

  その瞬間。誰かが蹴った衝撃でベッドが揺れた。

 

  そして、もう一度。

 

 「なんだ? 兄貴か? いつの間に……」

 

  帰って来た兄貴が、様子を見に来たのかと思った。大学に入ってから毎日帰りが遅いのだと、母さんがボヤいていた。

 

  でも、泣いた顔を見られたくない。


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