オリジナル小説

宿運 鍵 2


 そんな征志は、ちょっと物静かで冷たい印象を人に与えるところがあった。まあ、実際はそう見えるだけで、付き合ってみると、結構面白い奴だし退屈しないんだけど。

 

 「だいたいあの、人をバカにしたような目がいけねぇんだよなぁ」

 

  呟きながら、俺は一人で頷く。いや、目だけでなく、体全体で人をバカにしてんだよな、あいつは。

 

  クスクスと笑って、前方に目を向ける。ふと道路の真ん中に黒い物体を見つけて、俺は足を止めた。

 

  微かに、動きがある。

 

  なんだ? …あれ。

 

  一歩一歩、ゆっくりと近付く。それが何か判った瞬間、俺は息をのんだ。

 

 「……ひっ…でぇ……。どーしたんだよ、お前ッ」

 

  それは、毒々しい血に塗れた小さな仔猫だった。

 

  右目にはボーガンの矢が刺さり、体中傷だらけだ。もともとは真っ白であっただろう毛は、血と泥で汚れていた。

 

 「誰が、こんな酷い事を……」

 

 「…シ…ャァ……」

 

  声にならない声で、仔猫が鳴く。無意識に食いしばっていた俺の歯からは、ギリギリと音が洩れた。

 

  子猫の口元へと持っていった俺の指を、微かに舐めてくる。

 

 「ばっ……か…やろ……」

 

  そんなだから、こんな目に合っちまうんだろうが!

 

  飼い猫であったのか。人間にこんな酷い仕打ちをされながら、それでも人に愛情を示す。

 


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