「悪いな、お前に鏑木をくれてやるつもりはない。どうしてもと言うなら、今度こそお前を滅するぞ」
低く言い放った征志に、男だけではなく俺までもが凍りついた。だって普段の征志は、いくらなんでも、こんな冷たい言い方なんてしない。
まるで、知らない男のようだ。
夜の所為だろうか。征志の瞳は、闇のように漆黒になっていた。
「ちょ…ちょっと待てよ。征志」
庇うように男の前に立った俺に、征志の冷ややかな視線が向けられる。
「なんだ? お前は死にたいのか?」
「何言って……!」
「いや、死にたいんだ、お前は。無意識の内に死を望んでる。だから、そんな奴に付け入られるんだ」
「征志!」
「いや。付け入られたんじゃない。利用されたのは、こいつの方か……?」
俺の声を聞かず、ブツブツと言葉を綴り続ける征志を、マジで怖いと思った。
眉を寄せて顔を顰めた征志が、見下すように俺を見る。
「くだらないな。あの人のいない寂しさと、自分だけが生き残ったという負目。それが、今のお前の全てだ」
征志は、いつも以上に他人を寄せ付けない鎧を纏っていた。その征志に近付こうとする俺の肩を、男が掴む。
「やめろ。今のあいつには、誰も逆らえない」