幻の欠片 17


 

「悪いな、お前に鏑木をくれてやるつもりはない。どうしてもと言うなら、今度こそお前を滅するぞ」

 

  低く言い放った征志に、男だけではなく俺までもが凍りついた。だって普段の征志は、いくらなんでも、こんな冷たい言い方なんてしない。

 

  まるで、知らない男のようだ。

 

  夜の所為だろうか。征志の瞳は、闇のように漆黒になっていた。

 

 「ちょ…ちょっと待てよ。征志」

 

  庇うように男の前に立った俺に、征志の冷ややかな視線が向けられる。

 

 「なんだ? お前は死にたいのか?」

 

 「何言って……!」

 

 「いや、死にたいんだ、お前は。無意識の内に死を望んでる。だから、そんな奴に付け入られるんだ」

 

 「征志!」

 

 「いや。付け入られたんじゃない。利用されたのは、こいつの方か……?」

 

  俺の声を聞かず、ブツブツと言葉を綴り続ける征志を、マジで怖いと思った。

 

  眉を寄せて顔を顰めた征志が、見下すように俺を見る。

 

 「くだらないな。あの人のいない寂しさと、自分だけが生き残ったという負目。それが、今のお前の全てだ」

 

  征志は、いつも以上に他人を寄せ付けない鎧を纏っていた。その征志に近付こうとする俺の肩を、男が掴む。

 

 「やめろ。今のあいつには、誰も逆らえない」

 

 


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