夢幻の忘却 1


 

「あ……醤油がない……」

 

 家庭科室の棚を覗き込んだリヴァイ・アッカーマンは、棚から取り出した醤油のボトルをパチャパチャと揺らす。

 

 仕方がない。買出しに出るか、と鞄から紙を取り出した。

 

 調理台で買い足す分のメモを書いていると、ガラリとドアの開く音がする。振り返ると、顧問のミケ・ザカリアスが入ってきた。

 

「今日は料理は無しか……」

 

 鼻で嗅ぐまでもなく、という事か。

 

 いつものスンスンと鼻を揺らす癖は、出していなかった。

 

「醤油がねぇんだよ」

 

 メモへと視線を戻し肩を竦めるように言ったリヴァイに、フンと鼻を鳴らす。

 

「買い出しか」

 

 背後から覗き込むようにしてメモを見たミケは、ふむ、と考え込むように顎へと手を遣った。

 

「買出しから帰ったらすぐに取りかかる。下校時刻までには2人分仕上げて片付けまで済ませられる。それで問題ないだろ?」

 

 高校近くのアパートで1人暮らしの自分と、独身のミケの為に、家庭科クラブの部活がある日は2人分の夕食を作る。

 

 時間に余裕のある日はこの家庭科室で一緒に食べて帰る時もあるが、凝った料理の時や職員会議などがある時は、作ったものをそれぞれ持ち帰って自宅で食べていた。

 

 今日もそれでいいだろ? と見上げたリヴァイに、ミケは「いや、丁度良かった」と上体を起こす。


進撃の巨人