うたた寝


 

「……は?」

 

 出先から寮へと帰れば、共用スペースのソファで半分野郎が座ったまま寝ていた。

 

 ――なんでこんなトコで寝とんだ、こいつは。

  

 部屋の方が暖かいだろうに……。

 

 辺りを見回すが、誰も居ない。

 

 誰かが居たなら起こしてやるんだろうが、生憎誰も気付かなかったんだろう。

 

 起こしてやる親切心もないが、近くに寄って、なんとなく顔を覗き込んでみる。

 

「睫毛、長ェな……」

 

 まるで端整な人形だ。

 

 

 表情もなく、ただお綺麗な――。

 

 

 こうしていると、生きているのかも疑わしくなってくる。

 

 触れて、確かめたくなる。

 

 人形ではないのだと――ちゃんと、生きているのだと。

 

 頬へと触れかけた指先を、引っ込めた。

 

 

 ……頬に、触れてぇ。

 

 髪を撫でて。唇に触れて。首筋に――。

 

 

「なんで、こんな無防備なんだ」

 

 クソがッ、と舌打ちして。己が巻いているマフラーを外した。

 

 半分野郎の首へと何重にも巻いて、口許もマフラーで隠す。

 

「うしっ!」

 

 起こす事もなく離れて、エレベーターのボタンを押した。

 

 

 起きたなら。あのマフラーが俺のだと、気付くだろうか。

 

 返しに部屋へと、訪ねて来るだろうか。

 

 

 そこまで考えて、「ハッ」と自嘲気味に笑いを吐いた。

 

 

  俺のだと、気づく筈がない。

 

 

 あんな、ボーッとしているヤツが、俺の事なんか見ている筈もない。

 

 明日の朝、畳まれたマフラーがソファに置かれているのがオチだろう。

 

「いつか……『俺』を見ろよ……」

 

 エレベーターに乗り込んで、ソファの向こうに見えている赤と白の頭を見つめた。

 

 

 なあ轟。いつか、俺を――。