幻の欠片3


 

 しかし俺の場合、その幽霊が視(み)える時と視えない時があって、今も、眉間に皺を寄せた征志が何かを視ているのは判るが、そのモノ自体は俺には視えなかった。

 

 「ん? あれ。お前には視えないのか?」

 

  夕焼けに照らされ、オレンジ色へと染まっていく枝を指差して、征志は不思議そうに言った。

 

 「視えてたらわざわざ聞くかよ。俺はお前と違って、全然、視たくもねぇんだから」

 

  肩を竦めて言う俺を見ながら、眉間の皺を深くした征志は、手を口元へと持っていった。

 

 「ふん。ヘンだな。なんでだろ」

 

  俺の顔を見つめたままで、首を傾げる。そしてゆっくりと、視線を銀杏の枝へと戻した。

 

 「あいつ。俺を威嚇してんだよなぁ。原因は、お前だと思ったのに……」

 

 「はあ? なんじゃそりゃ。……それより征志。俺、早く帰りたいんだけど」

 

 「今日も、あの人の所へ寄るのか?」

 

 「ああ。もちろん」

 

  俺の台詞に、征志の顔が微かに曇った。征志はいつも、『あの人』と呼ぶ。

 

  俺達の……苦い記憶。

 

  半年前。俺は大事な親友を、嫌な事故で亡くしていた。思い出しただけで、左の頬と腕の傷が疼うずく。

 

 「おばさんの作る料理は、最高だからよ」

 


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