しかし俺の場合、その幽霊が視(み)える時と視えない時があって、今も、眉間に皺を寄せた征志が何かを視ているのは判るが、そのモノ自体は俺には視えなかった。
「ん? あれ。お前には視えないのか?」
夕焼けに照らされ、オレンジ色へと染まっていく枝を指差して、征志は不思議そうに言った。
「視えてたらわざわざ聞くかよ。俺はお前と違って、全然、視たくもねぇんだから」
肩を竦めて言う俺を見ながら、眉間の皺を深くした征志は、手を口元へと持っていった。
「ふん。ヘンだな。なんでだろ」
俺の顔を見つめたままで、首を傾げる。そしてゆっくりと、視線を銀杏の枝へと戻した。
「あいつ。俺を威嚇してんだよなぁ。原因は、お前だと思ったのに……」
「はあ? なんじゃそりゃ。……それより征志。俺、早く帰りたいんだけど」
「今日も、あの人の所へ寄るのか?」
「ああ。もちろん」
俺の台詞に、征志の顔が微かに曇った。征志はいつも、『あの人』と呼ぶ。
俺達の……苦い記憶。
半年前。俺は大事な親友を、嫌な事故で亡くしていた。思い出しただけで、左の頬と腕の傷が疼うずく。
「おばさんの作る料理は、最高だからよ」