宿運 扉19


 

 「四海の大神、百鬼を避(しりぞ)け、凶災を蕩(はら)う急々如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)」

 

  唱え終えると同時に、悲鳴をあげた鬼が光と共に消え失せる。光の中で渦を巻いていた空気は、風と同化して夜空へと消えていった。

 

  天を仰いで大きく息を吐いた上宮は、光の柱があった四つの場所へ、素早く駆け寄った。地面から何かを拾い上げると、それをポケットへと突っ込みながら、こちらに走って来る。

 

 「あいつは、地の底に戻しといたよ」

 

  無言で自分を見上げる孝亮に、手を差し出しながら言う。その手首を取った孝亮は、俺の手を握らせた。

 

 「ほれ、僚紘。命の恩人に礼言え」

 

  そう言って立ち上がると、パタパタと服をはたく。

 

 「あーあー、いい男が台無しだな、こりゃ」

 

  ブツブツ言う孝亮を横目に、上宮の手を引いて立ち上がる。

 

 「あんたら、知り合いだったのかよ」

 

  上目使いに見る俺に曖昧に微笑んだ上宮が、孝亮を見遣った。

 

 「あ? まあ、昨日からってトコだな。昨日会いに行ったろ? この上宮のお陰さ」

 

  カカカッと笑って言う孝亮に、俺は一歩踏み込んだ。

 

 「昨日のアレは、俺を助ける為だったってワケ? あんな、まるで俺を殺してやりたいような言い方までして。バカ野郎だよ。てっきり俺は、あんたが俺を……」

 


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