オリジナル小説

宿運 君がため 序


 

 

 暑い。

 

 

 十二月だと言うのに、その辺りだけは、夏よりも熱い空気が流れていた。

 

 ――濛々と上がる煙。其処此処に散らばった機体。

 

 泣き叫ぶ声すらも聞こえない、灼熱地獄。その中を、何人もの男達が必死に生存者を探していた。

 

 ――絶望的。

 

 この状況では、生きている者などいないだろう。

 

「……頼む。一人でも、たった一人でもいいから、誰か生きていてくれ」

 

 祈るような気持ちで、空を見上げた。

 

 と、その時。微かに聞こえる声があった。

 

「皆黙って! 誰か、いる。……こっちだ!」

 

 声のする方へと走って行くと、一人の男が、機体の下敷きになってもがいている。

 

「ああ、奇跡だ!」

 

 男達は近付くと、機体を全員で押し上げながら男に話しかけた。

 

「もう、大丈夫だ! すぐに楽になるからな」

 

「怪我は? 足以外に痛いところはあるか?」

 

 二十歳過ぎ程の青年は、右眼から血が流れる顔を上げた。額から右眼にかけて、赤く焼けただれている。

 

「恵美(えみ)、恵美を……」

 

 男達の問いには答えず、青年は必死に震える手で一方向を指差した。

 

 そこには、一目見ただけで生きていないと判る少女か、全身にかなりの火傷と怪我を負って、倒れていた。

 

「彼女を、ここに……」

 

 機体に凭れるように座った青年は、男達が運んできた少女を、そっと抱きしめた。

 

 いたわるように、髪を撫でる。

 

「だから、言ったのに。誰も俺の言う事を聞かなかった。恵美、お前も。父さんも、母さんも……。そうして、俺だけ置いて行くんだ。――ごめんな、俺。お前を生き返らす方法知らないから……。あいつ、それだけは教えてくれなかったから……」

 

 肩を震わす青年の口から、突如、歌のような抑揚の言葉が出てきた。

 

「ヒト、フタ、ミヨ……」

 

 男達はチラリと互いに視線を交わすと、気が触れたのかと心配顔で青年を見下ろした。

 

「フルベユラユラトフルベ……。せめて安らかに、恵美」

 

 ギュッときつく彼女を抱きしめると、そっと地面に横たえる。

 

「静かに、運んでやって下さい……」

 

 そう男達に頼んだ青年は、やっと弱々しい笑みを見せた。ホッと息を吐いた男達は、ようやく青年を担架に寝かせる事が出来た。

 

「意識はしっかりしているようだね。名前、言えるかい?」

 

 男達の中の一人が、青年の顔を覗き込みながら訊いた。

 

「蘆屋道満(あしやどうまん)……。いや、今は安積由磨(あづみゆうま)だったかな?」

 

 ククッと笑う青年に、別の男が訝しげに声をかけた。

 

「大丈夫かね?」

 

「ええ、心配ないです。頭はしっかりしてますから……」

 

「それならいいが……。で、どっちの名前が正しいんだい?」

 

 男がやさしく問いかける。

 

「どっちでもいいです。――もう、どうでも……」

 

 自嘲的な笑みを洩らした青年は、そのまま、眼を閉じてしまった。