幻の欠片 16


 

 こいつは連れていくなと強く念じながら、グッと腕に力を入れる。背中にしがみつく男の手からは、消えたくないという『思い』が染み出していた。

 

  急に軽くなった空気に、ゆっくりと目を開ける。腕の中に男の存在を確認してから、左右を見渡した。

 

   もう、何も残っていない。見事に全てが消えていた。

 

 「よかったぁ……」

 

  ほぅと息を吐いて、男の肩に顎を乗せる。体の力が抜けていく。今頃になって、足が震えだした。

 

 「見せつけてくれるじゃないか、お二人さん」

 

  声に振り向くと、少し顎を上げるようにした征志が、ニヤリと笑って俺達を見下ろしていた。俺と目が合うと、ククッと笑いだす。それにつられて、俺も笑いだした。

 

 「俺、マッジで死ぬかと思った」

 

  差し出す征志の手を掴んで立ち上がる。征志の手の温もりが、生きている事を証明してくれていた。

 

 「ありがとな、征志。わざと人の霊には効かない呪を唱えてくれただろ」

 

  俺の言葉に、ヒョイと片方の眉を上げる。

 

 「さあてね。礼を言うのはまだ早いんじゃないかな」

 

  両腕を組んだ征志が、俺の後ろの男をジロリと睨む。しばらく目を細めて男を凝視していた征志は、ゆっくりと口を開いた。

 

 


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