オリジナル小説

宿運 鍵10


 

「げっ! なんだよ、アレは!」

 

 叫んで、俺は征志に向かって駆け出した。赤銅色をした腕が、まっすぐ征志の頭へと伸び進んでいく。

 

「しっかりしろ! 征志ッ!」

 

 鋭い爪が頭を掴む寸前、俺は征志の頭を両腕で抱え込んだ。同時に仔猫が牙を剥き、太い腕に牙を立てる。

 

「征志! おい、征志!」

 

 こんな時、頼れるのはお前だけなんだぞ! 

 

 頭を抱えたままで、もとの征志に戻ってくれと念じる。

 

 ギャッ…! と短い悲鳴をあげて、腕に牙を立てていた仔猫が吹っ飛ばされ、小さい体が転がった。それでもすぐに体制を立て直し、闇より出ようとする腕に飛び掛かる。

 

「大丈夫かッ! おい、征志! どうすりゃいいんだ。どうすれば、あいつは消えてくれんだよ!」

 

 目の前で傷付き、死んだ体とはいえ血を流す仔猫の姿に、涙が溢れ出す。

 

「もう、やめろッ!」

 

 再び吹っ飛ばされた仔猫が、まるでぬいぐるみか何かのように力無く転がる。それでも俺達を庇うように前に立ち、一向に衰えない腕に向かって飛び掛かった。

 

 赤銅色の大きな腕が、仔猫を振り払おうと激しく暴れ出す。

 

「…なんでっ……、なんであんなのが出てくんだよ!」

 

 

 征志を抱える手の震えが止まらない。太陽は出ているのに、ぼやけた薄暗い空を見上げた。