「どうした? 苦しいのか!」
両肩を掴んで、少年の顔を覗き込む。蒼白くなった顔が、苦痛に歪んでいた。
「ソンナニソイツガ、シンパイカ? トモヒロ」
ただならぬ空気を感じて、征志を振り返る。先程から自分達以外の人間の、いや、生き物の気配を感じないのだ。それは後ろにいるはずの、征志の事も含めてだった。
「なんだと…!」
叫びながらも、俺は我が目を疑った。振り返った目に映ったモノ。それは、膝を折って地面に屈んだ征志と、その後ろに渦巻く歪んだ空間だった。
膝を立て、片手で覆った征志の顔から、血の気が失せていく。
「征志!」
俺の声に顔を上げた征志は、こんな状況なのに、それでも笑っているのだ。
「オマエガダレヲエラボウガ、ダレトトモニイキヨウガ、オマエノカッテダ。ダガ、シヌノダケハユルサナイ。コンナハンパナシニカタデ、アノヒトノモトヘ、イケルトオモウナヨ……」
喋る征志の後ろで、歪みが大きさを増す。征志は虚ろな目をしたまま、動かなくなった。
俺の腕にいた少年の姿が仔猫に戻り、何かに反応して暴れだす。すり抜けるように俺の腕から飛び降りると、征志に向かって毛を逆立てた。
「何やって……!」
征志の方に目を向けて、俺は仔猫が睨みつけているモノが征志ではなく、歪んだ空間から伸ばされている大きな腕にだと気がついた。