オリジナル小説

宿運 鍵11


 

「俺か……? 俺のせいなのか?」

 

 俺が、闇にのまれようとしたから……?

 

 その言葉に反応したように、ガッと、征志の手が俺の腕を掴む。

 

「泣くな」

 

 顔を上げてそれだけを言うと、勢いよく立ち上がり、歪んだ空間を振り仰いだ。

 

「抑え過ぎた、俺の感情より生まれ出た歪みか!」

 

 ギリギリと歯を食いしばり、征志が巨大な腕を睨み据える。

 

「ふざけるなよ、俺に敵かなうはずがないだろう! 下がっていろ、鏑木! お前も離れろ! 早くしないと、一緒に消してしまうぞ!」

 

 征志の声に、仔猫が素早く腕から飛び降りる。

 

「天魔外道(てんまげどう)皆仏性(かいぶっしょう)、四魔三障成道来(しまさんしょうじょうどうらい)、魔界仏界同如理(まかいぶっかいどうじょり)、一相(いっそう)平等無差別!」

 

 唱えながら、赤銅色の腕を押し戻すように両手を前に突き出す。その手を掴もうとした手が、征志の手に触れる寸前、弾けるように腕を引っ込めた。そのまま歪んだ闇もろとも、吸い込まれるように消え失せる。

 

「オン、バサラ、トシコク!」

 

 パンッ! と征志が手を叩くと同時に辺りが明るくなり、いつもの朝の空気が流れだした。

 

 それまで聞こえなかった車の音や、遠くで話す人の気配が微かに耳に届く。

 

「すっげぇ。……あんなの出したり消したり出来んだな、征志」

 

 ペタリと地面に座り込みながら、俺はのんびりと言った。ドッと体の力が抜けていく。

 

「鍵は、お前さ」