オリジナル小説

宿運 鍵8


 

 深い呼吸を繰り返す征志に近付こうとする俺の肘を、少年が両手で掴んで引き戻した。

 

 「かわいそうにね、お兄さん。このお兄さんは、あなたを選んではいないよ。逝きたがってる。だからね、ボクと一緒に逝くんだ」

 

  笑いを含んだ少年の言葉に、征志が俺を睨みつけた。

 

 「ばっかやろが」

 

  吐き捨てるように言う。征志は手荒く前髪をかき上げて、そのまま腕に顔を埋めた。その肩が、微かに震えだす。

 

 「ソレデモ……ダメダ。オレハ、ミトメナイ」

 

  ゆっくりと吐き出された征志の言葉に、俺は目を剥いた。腕を掴んでいる少年の手を、払いのける。

 

  変だ。いつもの征志のしゃべり方じゃない。

 

  それは、抑揚のない。そう、まるでロボットがしゃべったような、機械的な話し方だった。

 

 「おい? ……征、志?」

 

  踏み出そうとする俺の足に、何かが当たる。足元を見ると、なぜか少年が倒れ込んでいた。その体が、小刻みに震えている。

 

 「なに…? どうしたんだよ」

 

  体を引き起こすと、少年はダラリと反っていた首を、ゆっくりと起こした。

 

 「……あのヒト…、なに…モノ……」

 

  絞り出すように声を出すと、俺の肩に顔を埋めてくる。ガタガタと、震えもひどくなってきていた。

 

 「……うっ、ぐる…ううっ…」

 

 

  少年の喉が異様な音を鳴らし、体が震えから痙攣へと変わっていく。