「お前が」
両手をズボンのポケットに突っ込んだ征志が、静かに口を開いた。
「お前が夢で……。いや、正しくは魂だけの姿で、ここ幾晩か会っていた相手だ」
「え?」
「だからさ。お前は寝ても夢を見ないし、眠気も取れない。だって、寝ていないんだからな。その上こいつは俺に気取られないよう、起きてる間はお前が思い出さないように記憶を封じていたんだ」
ポケットに手を突っ込んだままで、肩を竦すくめる。
「それが仇あだとなったな。肝心な今この時に、こいつと会っていたお前ではなく、俺と過ごしていたお前が目覚めてしまったんだから」
フイと俺の顔を見た征志が、曖昧に微笑む。
「どちらがお前の望むものなのかは、判らないけどな」
「…………」
征志から目の前の男に視線を戻す。しかしジッと地面を見つめる男は、俺を見ようともしなかった。
俄かには信じられない。だけどきっと、征志が言う事は本当なのだろう。
「俺は……」
男と同じように、地面に視線を落とす。
どれ程の時間をこの男と過ごしたのか、どんなふうに過ごしたのか、その欠片すらも思い出せない。
なんと声をかけていいのか、それさえも思い浮かばないのだ。