オリジナル小説

宿運 鍵 5


「安らかに、成仏してくれよ」

 

 土をかぶせて手を合わせる。俺に出来るのは、これくらいだ。

 

 征志ならこんな時、魂を安らかに送る呪言の一つも、知ってるんだろうけどな。

 

「お兄さん」

 

 不意に声がして、俺はピクリと体を強張こわばらせた。この、感覚は……。

 

 目を見開いて、声のした方にゆっくりと顔を向ける。

 

 俺の真横に、少年が立っていた。白いシャツに白い半ズボンをはいて、人なつっこい笑顔を浮かべている。歳は、十歳くらいか。

 

「おっまえ……いつのまに……」

 

 ちょっと待て。ついさっきまでは、誰もいなかったはずだ……。

 

 驚愕に引きつる俺の顔をまじまじと見上げながら、少年は袖を引っ張る。

 

「ねえ、泣いてるの?」

 

 不思議そうに言う少年の指が、俺の頬を伝う涙に触れる。

 

「あ……っ、これは……」

 

 言って、少年の指が異様に冷たい事に気がついた。少年からは視線を外さず、ガッと手首を掴む。

 

 やはり、冷たい。まるで氷のようだ。

 

 手首を掴む俺の力に、少年が一瞬顔をしかめる。だがすぐ真顔に戻った少年は、同じ言葉を繰り返した。

 

「泣いてるの?」

 

「…………」

 

「泣いてるの? ボクのために、泣いてるの……?」

 

「え…っ?」

 


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