幻の欠片 10


 

「とも…ひろ」

 

  声が……。意識が……。強い言葉が俺を揺さぶる。

 

 『ともひろ』  

 

  どこか不安げで、それでいて力に満ちた強い意志。この強い魂を、俺は知っている。懐かしい、遠い……遠い……記憶。

 

 「鏑木!」

 

  聞き慣れた声に、俺はハッと意識を戻した。

 

  ガッと強引に見開いた目に映ったモノ。それは、俺の腕を掴む見知らぬ同年代の男と、そいつをこれ以上ないくらいに睨みあげる、征志の姿だった。

 

 「……あ?」

 

  間抜けな声をあげた俺を、二人が同時に振り返る。

 

  その二人の向こうに見える景色に、俺はさらに情けない声を出した。今の今まで家の、それも自分の部屋にいたはずなのに、ここは。

 

  ……あの、例の銀杏の樹の下? 

 

  そこに俺は、薄いTシャツに短パンのまま、裸足で立っているのだ。

 

 「僚紘!」

 

 「鏑木!」

 

  二人が同時に叫ぶ。その二人を交互に何度も見た後、俺は見知らぬ男の方で視線を止めた。

 

  男が、ぎこちなく俺に笑いかける。

 

 「……あんた。……誰だ?」

 

  俺の言葉に頬を引きつらせた男は、指が食い込むかと思う程、強く俺の両肩を掴んだ。

 

 「うそだろぉ! 僚紘ッ」

 

  男の口から、悲鳴のような声が洩れる。膝の力が抜け、崩れそうになる男の肘を、慌てて支えてやった。

 

 


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