「とも…ひろ」
声が……。意識が……。強い言葉が俺を揺さぶる。
『ともひろ』
どこか不安げで、それでいて力に満ちた強い意志。この強い魂を、俺は知っている。懐かしい、遠い……遠い……記憶。
「鏑木!」
聞き慣れた声に、俺はハッと意識を戻した。
ガッと強引に見開いた目に映ったモノ。それは、俺の腕を掴む見知らぬ同年代の男と、そいつをこれ以上ないくらいに睨みあげる、征志の姿だった。
「……あ?」
間抜けな声をあげた俺を、二人が同時に振り返る。
その二人の向こうに見える景色に、俺はさらに情けない声を出した。今の今まで家の、それも自分の部屋にいたはずなのに、ここは。
……あの、例の銀杏の樹の下?
そこに俺は、薄いTシャツに短パンのまま、裸足で立っているのだ。
「僚紘!」
「鏑木!」
二人が同時に叫ぶ。その二人を交互に何度も見た後、俺は見知らぬ男の方で視線を止めた。
男が、ぎこちなく俺に笑いかける。
「……あんた。……誰だ?」
俺の言葉に頬を引きつらせた男は、指が食い込むかと思う程、強く俺の両肩を掴んだ。
「うそだろぉ! 僚紘ッ」
男の口から、悲鳴のような声が洩れる。膝の力が抜け、崩れそうになる男の肘を、慌てて支えてやった。