宿運 扉5


 

  まさか、家を出ようとしているなんて、思ってもみなかった。

 

  そして親友である筈のこの俺に、今まで何も言ってくれなかった事が只、悔しくて仕方なかった。

 

 「なんで家出る必要があんだよ。どっか遠くへ行くつもりなのか?」

 

  絞り出すように言った言葉に目を閉じた孝亮は、少しの間を置いてガリガリと頭をかいた。そうしてゆっくりと瞼を上げると、フイッと俺を見た。

 

 「行くぜ。俺はレーサーになるんだ。イギリスでレーサーやってる叔父がいる。そいつんとこに行く事になってる」

 

 「イギリス…!」

 

  驚く俺から視線を外した孝亮は、ペッとタバコを吐き捨てた。

 

 「二年だ!」

 

 「えっ?」

 

  ズイッと俺の目の前に、指を二本突き出す。

 

 「二年でおっさんに俺を認めさせてみせる。そしたら、お前もイギリスへ来い!」

 

 「はあ?」

 

  再びニンマリと笑った孝亮は、眉を寄せる俺の胸に、コツンと拳こぶしをあてた。

 

 「お前はこれから高校卒業するまでの二年間、死にもの狂いでバイクの勉強するんだ」

 

 「なんで?」

 

 「この天才レーサーのバイクを整備すんのは、お前だ」

 

  親指で自分を指差した孝亮は、勢いよく立ち上がった。

 


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