オリジナル小説

鍵 1


「行ってきます」

 

  朝。俺はいつも通りの時間に、家を出た。門扉の前に立って、ゆっくりと左右を見渡す。

 

  まだ、来ていない……。

 

  眉を寄せて、腕時計を覗き込んだ。

 

 「八時十五分。…ってこたぁ、あいつ」

 

  またかよ、と軽く舌打ちして、目の前の電柱を拳で叩く。

 

  いつも征志が立っている場所。

 

  あいつが、時間に遅れてくるはずがない。考えられる事は、ただ一つ。

 

 「さぼりだな」

 

  俺は短い溜め息を吐いて、ゆっくりと歩き出した。

 

  俺の友人の上宮征志(かみつみや せいじ)は、裕福な家の一人っ子として育った所為か、気分屋なところがあった。

 

  それは嫌われる程ひどいものでもなかったが、今日のように気分が乗らないからと学校に遅刻してくるなんてのは、度々の事だった。だから、寝過ごしたとか、待ち合わせの時間に遅れて走って来るかも……と考えるよりは、ああ、また気分が乗らないんだ……と考える方が自然だ。

 

 

  春に引っ越してきて以来、こんなに頻繁に遅刻しても単位を落とさないのは流石だと思う。ちゃんと計算しているのだろう。