宿運 扉9


 

「目障りだ! よけいな事すんじゃねぇ。いいか、あの場所へは、二度と来んじゃねぇぞ!」

 

  カッと目を見開き低く言った孝亮は、突き放すようにして胸倉から手を離した。

 

 「なんで……そんな事……」

 

 「ああ?」

 

 「だって! あそこはあんたを見た最後の場所じゃないか。あんたの『思い』が残ってる場所じゃないか!」

 

 「あんな場所にッ、俺の思いは残ってやしないッ!」

 

  聞いた事もないような鋭い声に、見た事もない程険しい顔に、俺は動けなくなった。

 

 「俺等はもう、親友じゃねぇ! 俺は死んだんだぜ。……おい、知ってるか? バカ野郎が! 俺はなあ、あの晩、お前さえケツに乗せてなかったら、死ぬ事もなかったんだぜ! 今も、テメェの所為で地獄へも行けやしねぇ!」

 

 「違う! 俺等は親友だッ!」

 

  シーツを掴んで叫んだ俺に、孝亮が目を剥いた。ガッと、勢いよくベッドを蹴り上げる。

 

 「寝ぼけてんじゃねぇぞ! いいか! あそこへは、もう二度と来んじゃねぇ! もし来たら……」

 

  ベッドに手をついて、ズイと顔を寄せてくる。

 

 「お前のその命。無いものと思え!」

 

  俺の頬のキズを右手でなぞり、孝亮はそのまま姿を消した

 


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