宿運 扉17


 

  ガクッと頭をうなだれた孝亮は、顔を上げると、俺の目の前に拳(こぶし)を突き立てた。

 

 「ああ! ああ! 殺してやりたいとも! 少しは人の言う事聞け!」

 

  拳をプルプルと震わせる。

 

  あっけに取られた俺は、次の瞬間、ハハッと笑い声をあげた。ホント、こいつは死んでも変わらねぇ。

 

 「怖えー、孝亮。鬼みたい」

 

  ガツンと拳で俺の頭を殴った孝亮が、後ろを振り返る。

 

 「ふざけるな。鬼は、あいつだ!」

 

  さっきの女の子が、グシャリと潰れたトラックの上に立っている。

 

  ニィーと不気味に笑う口からは牙が生え、頭には二本の『角』としか言いようのないモノが生えていた。

 

  口から洩れる唸り声は、到底人間の声とは思えない。

 

 『コッチニ、コイ!』

 

  低く響く声で叫ぶと同時に、髪が逆立つ。次の瞬間、俺の後ろのショーウィンドウのガラスが砕け散った。

 

 「あいつの狙いは、最初(はな)っからお前だったんだ。俺等にあいつを倒す能力(ちから)はない!」

 

  サザァーとアスファルトが盛り上がり、一旦宙で停止した。そして無数の塊となって、俺達に向かって飛んでくる。

 

 「だが、あいつなら…!」

 

  俺を抱えた孝亮は、横へと跳んだ。

 

  自ら飛び掛かろうとする鬼に、すぐに体制を立て直す。膝をついて鬼を振り仰ぐと、孝亮は勢いよく叫んだ。

 

 「上宮ッ!」


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