ガクッと頭をうなだれた孝亮は、顔を上げると、俺の目の前に拳(こぶし)を突き立てた。
「ああ! ああ! 殺してやりたいとも! 少しは人の言う事聞け!」
拳をプルプルと震わせる。
あっけに取られた俺は、次の瞬間、ハハッと笑い声をあげた。ホント、こいつは死んでも変わらねぇ。
「怖えー、孝亮。鬼みたい」
ガツンと拳で俺の頭を殴った孝亮が、後ろを振り返る。
「ふざけるな。鬼は、あいつだ!」
さっきの女の子が、グシャリと潰れたトラックの上に立っている。
ニィーと不気味に笑う口からは牙が生え、頭には二本の『角』としか言いようのないモノが生えていた。
口から洩れる唸り声は、到底人間の声とは思えない。
『コッチニ、コイ!』
低く響く声で叫ぶと同時に、髪が逆立つ。次の瞬間、俺の後ろのショーウィンドウのガラスが砕け散った。
「あいつの狙いは、最初(はな)っからお前だったんだ。俺等にあいつを倒す能力(ちから)はない!」
サザァーとアスファルトが盛り上がり、一旦宙で停止した。そして無数の塊となって、俺達に向かって飛んでくる。
「だが、あいつなら…!」
俺を抱えた孝亮は、横へと跳んだ。
自ら飛び掛かろうとする鬼に、すぐに体制を立て直す。膝をついて鬼を振り仰ぐと、孝亮は勢いよく叫んだ。
「上宮ッ!」