宿運 扉13


 

 うんざりとした様子で話す男は、肩を竦すくめてみせた後、俺をギロリと睨んだ。

 

 「どんな理由があろうと、命を捨てようなんて奴は、俺は許さない」

 

  命を捨てるという表現になのか、許さないという言葉になのか、俺はショックを受けていた。訳の解らぬ衝撃に、反射的に言い返してしまう。

 

 「別になぁ! 自殺したい訳じゃねぇぞ!」

 

 「ほぉ…」

 

  唇の片端を上げた男は、両肘を掴むようにして腕を組んだ。塀に凭れて、眉をそびやかす。

 

 「自殺する気じゃないなら、なんで自分が死ぬ事に納得してるんだ?」

 

 「…それは……」

 

  俯いた俺の顔に、鋭い男の視線が突き刺さる。孝亮の名を出しかけて、俺は口を噤(つぐ)んだ。

 

  長い沈黙にも動じない男は、腕を組んだままで俺を見つめ続けている。

 

 「……………」

 

  いつまでも黙っている俺に、仕方なく男は塀から背中を引き剥がした。

 

 「まあ、聞きたくもないけどな」

 

  溜め息混じりに言った男は、初めて笑顔を見せた。そのまま、何もなかったように歩き出す。

 

  しばらくして「ああ、そうだ」と振り返った男は、肩を竦めながらあっさりと言った。

 

 「死ぬのをやめたきゃ、しばらく家でおとなしくしてる事だな」

 


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