宿運 扉21


 

 「まあ、いいや。俺には解らねぇや。身さえ守れりゃ、なんでもいいのさ。鏡であろうが、棒っきれであろうがな」

 

  両手を頭の後ろで組んだ孝亮は、ハッとして顔を夜空へと向けた。そうして睨むように、ゆっくりと目を細めていく。

 

 「そろそろ……かな」

 

 「ああ」

 

  溜め息混じりに言う孝亮に、静かに頷いた上宮がチラリと俺を見た。

 

 「この人は、君が助かるかどうかを見届ける為だけに残ってたからね。だから……」

 

 「だから、死人はあの世へ逝くのさ」

 

 「……孝亮」

 

  孝亮はズボンのポケットに両手を突っ込むと、俺に目を向けて軽く肩を竦めた。

 

 「じゃな、僚紘。早く傷治せよ」

 

 「えっ? あ……ああ。この顔ね」

 

  左頬のキズをさすりながら言うと、孝亮はいつもの目を伏せた微笑みを浮かべた。首を横に振って、コツンと俺の胸を叩く。

 

 「違うよ、こっちの方」

 

 「……治らねーよ」

 

 「ん?」

 

 「治るワケないじゃん。だって! どーすんだよ、あんたの夢。あんたがいないんじゃ……」

 

  両手で孝亮の胸倉を掴む。顎を上げた孝亮が、ゆっくりと溜め息を洩らした。

 

 「こーゆー奴だけど、よろしく頼むよ。上宮」

 

 「………はい」

 

  俺の両手首を掴んだ孝亮は、ギュッと力を込めた。

 


オリジナル小説 小説ブログランキング