宿運 扉22


 

 「よく聞け、僚紘。俺は向こうでお前が来るのを待ってる。お前が来さえすれば、俺の夢も叶う。アセる必要はねぇ。きっちりケジメつけてから来い。俺達は、また逢うんだぜ、地獄でな」

 

  ニッと笑って片手を上げた孝亮は、まるで明日も会えるかのように、あっさりと姿を消した。

 

  今まで孝亮を掴んでいた両手を、ギュッと握りしめる。

 

 「離すべきじゃ、なかったんだ。あの時! 突き飛ばされようが、蹴られようが……。決して、離しちゃいけない手だったんだ……」

 

  もし、戻れるのなら――。もう一度、あの日、あの晩に。

 

  戻れたのなら、もう二度とこの手を離しはしないのに……。

 

  たとえ何が起ころうが、誰が邪魔をしようが、あの約束を守ってみせるのに……。

 

  二人でなら、イギリスでも地獄でも、どこでだって構わなかったんだ。

 

  歯を食いしばる俺の肩に、上宮がそっと手を乗せた。

 

 「それでも俺は、鏑木が生きていてくれて、よかったと思ってるよ。……心から」

 

 「え?」

 

  振り向いた俺に、上宮はやさしく微笑んだ。

 

 「俺はあの人に感謝してる。この世の全てを捨てても守ろうとした、あの人の『想い』に。そう、君の命を奪う事さえも厭(いと)わない強い意志に……。そして結果的に、君はこうして生きているのだから……」

 


オリジナル小説 小説ブログランキング