オリジナル小説 宿運 『鍵13』(クリックで移動) 公開しました。
前世と今世、鬼と桃太郎伝説が絡みあってゆく、男子高校生達の物語。
一人で高校へと登校していた鏑木僚紘は、ふと道の真ん中に黒い物体を見つける。
■鍵 13(本文より)
「ありがとう。死んでても、苦しいだろう? この傷は」
征志の言葉に、少年は小さく首を振る。
「さあ、もうお逝き。ここにいる限り、その痛みと苦しみは続くよ。路(みち)は、光が示してくれるから」
確認するように征志が俺に目を向ける。それに応えて、俺は黙って頷いた。
征志の口から、歌うような低い声が響きだす。
「ヒトフタミヨ、イツムユナナヤ、ココノ、タリ……フルベユラユラト……どうか、迷うことなく……」
光に包まれ消えていく中で、俺は白い仔猫の声を聞いた気がした。
「今度は、テツヤと同じ、人間になりたいよ……」
仔猫を埋めた土を撫でる俺の頭に、征志が鞄をゴツンとぶつけてきた。
「いつまで浸ってんだ?」
見上げると、呆れ顔の征志が腕を組んで、俺を見下ろしている。俺は鞄を受け取って、立ち上がった。
何か言いたげな征志に、チラリと目を向ける。
「征志。――お前、俺に何か隠してんのか?」
孝亮(こうすけ)の言った『ケジメをつける』ってのには、何か特別な意味でもあるのだろうか……?
しばらく俺をジッと見つめていた征志は、俺の問いには答えず、クルリと背を向けて歩き出した。
「なんだよ、ノーコメントなのかよ」
地面に放り出したままの上着を拾って、俺は急いで征志を追いかけた。
「しっかし、お前にしては珍しく、あの仔猫にはやさしかったな? さっき」