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【投稿BL・読切り】 この空の下で、キミと


以下の短編は、

『comico』さんの【チャレンジノベル】にMotokiが投稿した短編集『キミと紡ぐ…【BL編】』に含まれる短編作品となります。

 

 

 

■この空の下で、キミと

 

 

「もうすぐバレンタインか……」

 

 屋上の金網にもたれた俺は、青空の下でひとり呟く。

 

 ――んで、それが終わったら卒業式で。

 

 『あの人』も、もうすぐ居なくなる。

 

「つまんねぇのー」

 

 膝に顔を埋めて、吐き出した。

 

「バレンタインが何だって?」

 

 驚いて、顔を上げる。

 

 俺の屋上でのサボり仲間。里見敬先輩が、俺を覗き込んでいた。

 

「ビッ…くり、したぁ……。いつから居たんスか」

 

「何だ? 恋ワズライか?」

 

 言って、揶揄うように笑うサマが何だかムカつく。

 

「そうッスよ。だから何?」

 

 反抗的に睨み返すと、「べっつにぃー」と俺の隣に腰を下ろした。

 

「ちょっとナマイキーって思っただけ」

 

 フェンスにもたれながら頭の後ろで手を組むと、「それで?」と促す。

 

「何がッスか」

 

「バレンタインの話だろ? もらえそうなのか?」

 

「皆無」

 

 端的な俺の返事に、先輩が「アッハ」と笑った。

 

 ゴロンと寝転んで、俺の膝に頭を乗せてくる。

 

「フランス人みたいに、お前から贈れば? チョコレート」

 

 瞼を閉じたままの先輩が、ぼんやりと言う。

 

「フランス人?」

 

「そ。フランスじゃさ、男から女にチョコ渡すらしいぜ。んで女の方は、お返しとかもしなくていいの

 

「素晴らしいような、残念なような、習慣ッスね」

 

「まぁなー」

 

 等閑に答える先輩は、今にも寝そうだ。

 

「何でこんなに授業サボッてんのに卒業できんだよ、あんたは。それに、大学まで……」

 

 先輩の額にかかる前髪を、指先で弾いていく。

 

「やめろ。寝れねぇだろ。俺は、要領も頭も良んだよ。――ついでに顔もな」

 

「ハッハ。面白い冗談ッスねぇ」

 

 言いながら、前髪を弾く。

 

 

 この人は、知らないんだろうな。

 

 

 前髪を弾きたいんじゃない。弾く時に指先に触れる先輩の額の感触が、嬉しいんだって。

 

 

 そして本当は、俺は唇でその額に触れたいんだって事に――。

 

 パシリと不意に、手首を掴まれた。

 

「…どんなヤツ? お前が好きな娘って」

 

 気付けば先輩の瞳が、まっすぐと俺を見上げていた。

 

「頭が良くて……」

 

 要領も顔も良い、ヤローだって言ったら、あんたはどんな顔するんッスかね?

 

「俺にはこれっぽっちも、望みはない相手ッスよ」

 

「……そっか」

 

「……………………」

 

 

 ――なんッスか、その顔は。

 

 

 口角を上げたままで再び目を閉じた先輩を、叩き起こしてやりたい。

 

 けど。

 

「……臆病だよなぁー」

 

 小さく呟いて、静かな寝息をたて始めた先輩の額に指先で触れる。

 

 

 これって、俺だけなんスか?

 

 ねぇ、先輩。

 

 

 ねぇ。

 

 それとも――。