オリジナル小説 宿運 『幻の欠片20』 公開しました。
前世と今世、鬼と桃太郎伝説が絡みあってゆく、男子高校生達の物語。
学校からの帰り。友人の上宮征志は突然立ち止まり、銀杏の木の上に男がいると言い出した。
■幻の欠片20 (本文より)
グイグイと強く揺すられて、俺は目を開けた。途端に、パシリと頬を殴られる。
「イテッ!」
勢いよく起き上がり、今度は額を思い切り何かにぶつける。
「いってぇっ!」
同時に耳元で声がして、俺は額を押さえながら、そちらを見遣った。
兄貴が額を手で擦り、顔をしかめている。そしてハッとしたように俺の肩を掴むと、顔を覗き込んできた。
「大丈夫か、トモ」
「何が?」
訳が解らず眉を寄せた俺に、それを見ていた兄貴も、怪訝に眉を寄せる。
「何がって、今苦しそうにうなされてたじゃないか」
「え?」
そういえば、体中が汗でグショグショになっている。濡れた髪をかき上げながら兄貴を見上げると、呆れた目で俺を見下ろしながらも、安心したように小さく笑った。
「あまり驚かすなよ。……孝亮の奴が夢に出てきた直後だったから、あいつがお前を連れていこうとしてんのかと思ったよ」
ふぅーと細く息を洩らして、兄貴が呟いた。
「……孝亮、が?」
ピクリと反応した俺の頭を、ポンと叩く。
「あいつが、そんな事。する訳ないのにな」
俺を気遣う兄貴に、思わず笑みを零した。
「なんだよ」
むすりとして、兄貴が訊いてくる。
「いや……。生きててよかったと思ってさ。俺のコト、心配してくれる兄貴を見れる……なんて、さ…」
意識せず、ポトリと涙が足に落ちた。頬の、涙が伝った痕あとを掌で押さえて、征志の言葉を思い出す。